20161117

第12回 neco論で経済

 

「米大統領選とグローバル化の行方」

 

 2016年11月17日、アメリカの次期大統領がトランプ氏に決まったのを受け、今後の世界、日米間などの展望を望月講師から解説いただき、論議を行いました。

 

 トランプ氏はグローバル化を背景にした格差拡大や製造業の疲弊、移民問題など、現代のアメリカが抱えている病根を突き、「アメリカ第一主義」という内向きの主張を掲げて当選を果たした。

冷戦終結とともにグローバル化は急進展したが、トランプ氏の登場は「89年のベルリンの壁崩壊に匹敵する重要な出来事」(イアン・ブレマー氏)ともいわれる。トランプ氏のインパクトがどこまで世界を揺るがすか、現段階では見極めにくいが・・・。

 

 

トランプ・リスク どこまで?

 

イデオロギー的変質は?

ポピュリズム(大衆迎合の政治)の蔓延=閉塞感から強い指導者を待望するファッショ的風潮への抵抗力が欠如。

理念より実利を=冷戦時代の名残りである「民主主義と人権の守護神」という十字軍的な発想を捨てて、実利に即して行動。(戦後の自由世界をけん引したミッション意識が・・・)

アンチ・グローバリズム=自由と多様性を基軸にする成長路線に代えて、保護主義的な立てこもりに陥る危険が。

 

 

 

経済・外交政策では?

*TPPを白紙撤回=自由貿易を推進してきた米国のベクトルが真逆になる。米国内で政権と国際企業の間に軋轢が。世界貿易に縮み志向が。環境規制もからみ自動車業界には差し迫った問題が表面化も。

*防衛・安全保障問題=同盟離れや孤立主義は軍事介入など直接行動のリスクを高める。対日ではまず在日米軍の負担問題が浮上。安倍政権の防衛論悪乗りも懸念される。

*基軸通貨ドルの地位=戦後の自由貿易はドルの流動性が裏打ちしてきた。トランプの言う強いアメリカが強いドルにつながるか、国際市場でのドル供給に支障はでないか。

トランプ・フィーバー、サンダー

ス旋風の背景に中間層の没落

 

中間層の後退に製造業の地盤沈下。

 ピュー・リサーチセンターによれば、00年から14年の間で中間所得世帯のシェアが大きく落ち込んだのは、オハイオ州やノースカロライナ州、ミシガン州など歴史的に製造業主体の地域。

 

 反対に、テキサス州やコロラド州ではアッパーミドルクラス層が増えている。ここはエネルギーやIT、ヘルスケア、バイオなど新産業が伸びている。産業の新陳代謝が中間層ありようを変えていることをうかがわせる。

 

ラストベルト地域が反エスタブリッシュメントに

 

 鉄鋼や石炭、自動車などかつての主要産業が衰退してしまった「ラストベルト」(錆びた産業地帯、米国の北東部、ウィスコンシン州、ミシガン州(GM、フォードが本社)、オハイオ州、ペンシルベニア州などの諸州)で白人労働者の不満が鬱積。

 

 グローバル化や技術革新に振り落とされた人々が今回の大統領でトランプやサンダース支持。

 

■グローバル化が先進国内の所得格差を広げる

グローバル化が進行すると途上国の賃金が上がり、先進国の賃金が抑えられる「要素価格均等化の法則」が働いて、労働者の賃金水準は国際的な平準化がゆるやかに進む。

 

■欧米の場合は「自由貿易+移民」が増幅。

▼EU離脱を決めた英国の国民投票では、地方の労働者がポーランドなど東欧諸国からの移民急増に反発。グローバル化の波に取り残されてEUへの負担感ばかりを募らせた格差意識が底流にあったといわれる。

▼米国でも同様の現象がみられる。企業の海外移転や移民の増大で貧困層に追いやられたと感じている白人の労働者階層が、経済のグローバル化(日米が主導したTPP交渉など)や移民受け入れに反対するトランプ氏を共和党の大統領候補に押しあげた。

トランプの経済改革 実現度は日本は非正規雇用が格差拡大

 

■国税庁「平成26年分 民間給与実態統計調査」によると、14年(平成26年)末の平均年収は415万円。安倍政権誕生の13年以降、若干は上向いているものの、ピークの97年(平成9年)比では11.2%減と低迷が続く。

■賃金水準が戻らない最大の要因は雇用格差。年収がピークとなる50代前では非正規の賃金は正規の約4割、総平均でも6割という大きな格差が。

現在進行形の自由貿易圏作りを直撃トランプの経済改革 実現度は

 

❖大幅減税:先進国で最高の法人税を引き下げ。

2兆㌦に達するといわれる米大企業の海外滞留資金の還流を狙う。05年に時限立法で還流資金の税率を下げた際、同年は海外留保資金が3千億ドルも米国に戻る。

⇒ドル買い需要でドル高要因に

❖財政支出の拡大で景気を刺激。

10年間で1兆㌦は戦後最大のインフラ投資となる。

⇒減税と歳出増が重なれば財政赤字は一気に膨れがる⇒国債利回りの上昇⇒金利負担増、ドル高要因

❖関税引き上げ。(対中45%、メキシコ35%には放言?)ドル高を織り込んでも引き上げ幅いかんでは物価上昇要因に。⇒インフレと金利上昇は景気の足を引っ張る。

⇒保護主義的なスタンスの基調にインフレが加わるとドル安(円高)要因が重なる。

❖通商協定の見直し。

TPPは白紙撤回か全面見直し。NAFTAに手を付けるとなると、メキシコを対米輸出拠点にしている日本車への影響は大きい。

❖環境対策から手を引き、パリ協定を破棄。

もともとパリ協定は米国が対中アプローチの道具として使ったいきさつがあり、米国内で論議が十分こなれたものではなかった。

現在進行形の自由貿易圏作りを直撃する。

 

「一帯一路」路線を標榜する中国が主導する形で好都合な組成に動く可能性がある。

 

■日本の本当の身の丈が問われる時代になる。

 

米をめぐるパワーバランスの変化の速度と度合は、トランプ政権のやり方いかんにもよるが、対外コミットメントは一段と先細りに。それを前提にした対応が必要になる。

ただ、日本は非核宣言国のほか、地政学的にも完全に自立した安全保障体制を築くのは現実的には難しく、身の丈に合った方策を探るという難しい課題に直面する。